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研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

朝井リョウ『何者』と就活に向き合う態度について+

 小説家の朝井リョウ氏によるツイッターの安全な使い方解説書直木賞受賞作品『何者』を読みました。簡単にいえば就活の話なのですが、僕もいつのまにか大学3年生になってしまっており、そろそろ就活のことも意識してそれ関係の書籍を読もうと思い、読みました。

 

 主人公と友人の光太郎は就活真っ最中の大学生でルームシェアをしています。光太郎はバンドをやめ、髪を黒染めして短くし、就活に望みます。彼は典型的なリア充・高コミュ力系の男で、面接でも面接官を笑わせるなど人付き合いに長けています。

 主人公と光太郎と同じアパートに住む就活生カップルは大変意識が高く、一方で男の方は「就活なんて社会の常識に追従するだけの思考停止だ」と驕り高ぶっており、著名人の集まる""""""アフターパーティー""""""に精力的に参加、""""""""人脈""""""""を広げ、会社に依存しない自由な生き方を模索しています。他方で女の方は留学とインターンの経験を面接やグループディスカッションで誇示し、自分用の名刺をOB訪問で配ることに腐心しています。

 主人公はそんな彼ら(光太郎、意識高い男、女)を俯瞰型で観察し、男と女はなんて醜く浅ましいのだろう、と考えます。説明会にあえて私服を着て行って注目されようとする試みや、ツイッターのプロフィールにいくつかの実績らしきものを羅列して/で区切り最後にポエムを載せるという痛々しさ、そういうものに対して「何頑張っちゃんの」と冷笑するのです。「その努力が空転していることに気づけよ」とでも言うように。

 私たちは必至でエントリーシートを書く主人公や光太郎を見下すような高意識カップルに対して批判的な態度を取ります。自由な生き方とか言ってないでお前も現実を見ろよと。インターンの経験を大仰に語ってないで、素の自分を見せろよと。ツイッターでOB訪問や交流会の感想を満足気に披露するなよと。何もない自分を過度に装飾しても無駄だよと。

 

 しかし物語の中盤、私たちが共感する主人公は、彼が親しくしているバイト先のサワ先輩にある厳しい台詞を告げられます。

「ほんの少しの言葉の向こうにいる人間そのものを、想像してあげろよ、もっと」

 ツイッターで語られる言葉だけがその人間のことを反映しているわけじゃない。それを主人公、すなわち私たちは思い知らされるのです。

 ここは読み手によって感想が分かれると思います。僕は「サワ先輩、よく言ってくれた!」と、生意気な主人公に対する打撃を与えられたような感触がありました。

 一面では主人公に同意するところもあれば、反対に高意識カップルにも同意できるところもあるのです。それは、彼らは自分のやりたいことに真摯に向き合っているというところです。そういうのを無駄だと言って一笑に付す主人公の態度は、どうでしょう? 本当に正しいといえるでしょうか。

 反対に、主人公に同一化した読者は彼同様、サワ先輩の言葉によってハッとしたかもしれません。

 いずれにせよ私たちはここで就活、あるいは就活生に対する態度変更を迫られます。自分が何者なのかを探り続ける就活生。それは自己分析という言葉に端的に表れています。でも自分が何者かなんて分かるわけがない。あるかどうかも分からない「本当の自分」を探し続けることに意味なんて無い。就活を通して自己実現とかに邁進しようとしているやつは愚かだ。……確かにそうかもしれない。けれどもそうして観察だけに固執することにも意味は無い。何者にもなろうとしない人間に「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」などという資格はあるのか?

 

 僕は朝井リョウ氏の小説はこれと『桐島、部活辞めるってよ』しか読んでいないのですが、彼は青春が好きなんでしょうね。頑張ってる人の足を引っ張る人が一番キライなんだろうなと思いました。

 物語の最後、主人公は意識高いカップルの女の方にサワ先輩と同じような厳しい追求を受けます。そこで主人公はついに、いままでの自分のしてきた考えかたを改めざるを得なくなります。

 そして終わりのシーンの面接で主人公はこう答えます。

「短所は、カッコ悪いところです」

「長所は、自分はカッコ悪いということを、認めることができたところです」

 

 会社に勤めながら小説を書き続ける朝井リョウ氏のことをカッコ悪い、小説家らしくないと思う人もいるでしょう。僕もそういうことを思ってないとはいえません。そういう嫉妬のような感情に対する、「カッコ悪いかもしれないけれど自分はこれがやりたいんだ」という朝井リョウ氏自身の叫び声が、小説の中から聞こえてくるようでした。

 

ツイッターはやはり鍵をかけるべきですね。

 

2016/10/21 追記

映画版の感想を書きました。

http://liefez.hatenablog.com/entry/2016/10/16/181333

ていうか小説版の感想を1年前に書いていたことを今まで忘れてました。