研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

8月に読んだ本

夏休みが終わり、明日から仕事だ。ということで寝る前に駆け足で振り返りたい。

 

 

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

横浜駅SF (カドカワBOOKS)

 

 

横浜駅はいつもいつも拡張工事を行なっていることで知られている。それに着想を得、横浜駅は自らの意志によって自己増殖しているというアイデアを付与したSF。著者は科学系の研究者らしい。本州全域が横浜駅に覆われ、九州と北海道が抵抗線戦を張っている。また横浜駅外部に住む主人公は「非スイカ民」だが、ある日漂流したレジスタンスから「18きっぷ」を渡され、横浜駅構内での5日間の旅を始める。

設定は面白かったけど物語はうーん。もともと著者がツイッターで設定をつぶやいたらバズったのでカクヨムで連載したらしい。編集がもっとシナリオに口を出すべきだったんじゃなかろうか。

 

 

 

会社で絶対にやってはいけないミスをしたその日、憔悴しきった身体で地元の書店を訪れた時に手に取ったのがこれだった。帯に「10代が泣いた小説1位」とあるが気にしてはいけない。社会に、世間に溶け込めないすべての人が読むべき傑作SF。ていうか主人公のチャーリィは30代の設定だからな。

知的障害者の主人公(IQ70)が特殊な手術で天才(IQ190)になるが、実はその手術は不完全で、ピークが過ぎると被験者の知能は再びもとに戻っていく。その模様を主人公の手記形式で綴っていく。ひらがなばかりで文法ミスの多い文章がしだいに洗練されていき、抽象的な心理描写や比喩表現なんかが増えていく様はなかなか感動する。原書では稚拙な段階の文章はスペルミスなどで表現されているらしい。

しかしそこからまた文章のレベルが退行していくところはほんとうに悲しい。幼児→大人→老人の人生のシークエンスを見せられているようでもある。8月頭、2年ぐらいぶりに祖母に会いに行ったが、その時の様子を思い出したりもした。つまりは、もうそういうことなのだ。

頭が良くなることで世の中の良くないことが見えてしまい苦悩する、そういうのが一貫して描かれている。たとえばチャーリィは思い出す、母親に教育と称して暴行を加えられていたことを。当時はそれは愛情の1つだと考えていた、でもいま思えばそれは……などなど。

救いを求めて手に取った本だったけど、救われたかというとよくわからない。でも確かなのは、いま僕がいま見ている世界を相対化させてくれたということだ。僕は何を悲しいと思い、何を楽しいと考えているか。それは正しいことなのか。IQ70で、うすのろだと言われながらも心優しく笑っていたチャーリィは、僕とは全く違う世界を見ていた。そんな気がしてならない。いまの僕は、アルジャーノン(チャーリィと一緒に手術を受けたネズミ)に花束を渡す心さえもっていない。しかしせめて、その時がきたら、祖母には花束を渡したい。

 

 

死ぬこと以外かすり傷

死ぬこと以外かすり傷

 

最近になって興味が出てきた人。うん、まあ、いいんじゃないでしょうか。しかしこの人はやることが鮮明だなと思う。「100年後まで読み継がれる本を作ろうとは思わない」「正しいことはつまらない。楽しいことだけやろう」とか……まあそれはそれで、いいんじゃないでしょうか。

 

 

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている

 

蓋し名著。1時間で読めるからとにかく買おう。書名を見ると、「勘違いさせる力がある人が強いなんて知ってる。でもそれってずるいじゃん。ずるいことはしたくない」と思う人がいるだろう。わかる。僕もそう思う。この本のすごいところは、そんな僕のような人の忌避感を解除するためのロジックを精密につくっているところだ。人は正確に実力を計ることができない。この事実は変えられない。それを認識するところから出発しよう。本書の旅はそこから始まる。

ストーリーテリングもうまい。著者の主張に対して謎の面々が突っ込みを入れ、それに対して著者が反論するという対話形式で進んでいく。著者のブログがそういう形らしいのだが、伝えるのがうまいなと思う。内容はとにかくいいのだが、スタイルも洗練されている。だからこそ内容も頭に入っていく。

思えば僕も就活の際は自らの能力を過剰に見せ、本書でいうところの「錯覚資産」を大いに活用していた。会計でいうところの純資産、すなわち「実力」に大いにレバレッジをかけ、内定を取った。そのためいい環境に身を置くことができた。その後実力が上がったかというと微妙だが、この本を読み、今後どうしていくべきか、考えさせられた。前述の箕輪氏は錯覚資産の活用にきわめて長けている人なのだろうなとも思った。

 

こんなもんか。あんまり読んでなかった。もしかしたら他にも読んでるものがあったかもしれないけど、記憶に残ってるのがこれだけということは、まともに読んだのはこれくらいということだろう。今後はkindleを活用していろいろ読んで行かないと……