研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

Baby Driver ;アルバム紹介

2017年8月19日、激震が走った。

新宿バルト9で何の気なしにレイトショーのチケットを予約した僕は、ゼロに等しい期待を背負って硬めのシートに腰かけた。土曜の夜。誰にも邪魔されないプライム・ナイト。どれだけ夜ふかししても、どれだけ深酒をしても、誰にも迷惑をかけない。そんなやりたい放題のある夜、僕はといえばとくに見たい映画はなかった。だが大学2年生の頃から手ぶらで興味もない映画館に行く習性ができてしまった僕は、なんでもいいから映画館に行きたいと思った。それでまったくノーマークだったが、フィルマークスで人気だというらしい「ベイビー・ドライバー」のチケットを取った。そしてまったく期待しない目でノロノロと自転車のペダルを漕ぎ、南新宿に行った。そしてやる気のない手つきでチケットを発券し、寝てもいいかなという腑抜けたモードのままシートに腰掛けた。それが大いなる過ちであることに気づいたのは、本編が始まってわずか5分後のことだった……

 

Baby Driver (Music From The Motion Picture)

Baby Driver (Music From The Motion Picture)

 

というわけでサントラの”Baby Driver”。サントラという特性上、音楽について語ることがそのまま映画について語ることになり、逆もまた然りなのだが、まあ、映画を見ていない人がサントラに興味をもつことはないだろうから、素直に映画について語る。

といっても曲とそれにまつわる場面をすべて語るわけにはいかない(なぜならこのブログは会社帰りの電車15分の中で書き切るという制約を自分に課しているから)。というわけで一曲に絞って書く。その一曲というのが”Easy”だ。これはもともとアメリカのバンド・commodoresによる1977年のシングル曲だが、commodores版は物語の中盤、主人公のベイビーが車をスクラップに出すシーンで流れる。

が!  しかし、この映画ではEasyが流れるシーンが2度訪れる。そして僕が好きなのはその2度目のシーンだ。

それは映画の最後、ベイビーがデボラの運転する車の助手席で目覚めるシーン。発砲音で聴覚を一時的に失ったベイビーの鼓膜に、遠くから母親の歌声が聞こえてくる。ここで流れるEasyはベイビーの母親役を演じたアーティストのsky ferrera。そう、つまりこの映画においてEasyは2つの役割を持っている。一度目は車を破壊してしまうような衝動を抑える、落ち着かせるという意味でのEasy 。二度目は傷ついた心を癒す、安心させるという意味でのEasy。

その2つのEasyを改めてサントラで聴くと、僕みたいなどうしようもなく情けない人間は、やっぱりsky ferreiraのEasyを好きになってしまうのだった。