研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

大学を卒業して2年が経とうとしているが

演劇を観に行った。高校時代の友人が役者をやっていて、彼が出る劇に誘ってくれたのだ。劇は早稲田大学の学生会館にある舞台で行われた。大学3年生の頃だったかな、彼に誘われた時も早稲田大学の学生会館に行った。学生会館には世の中をなめくさった大学生がわんさかいて、ぼくは人生楽しそうですねえと羨望と嫉妬の入り混じった視線を投げかけた。

 

日曜日の夕方。休みにもかかわらずこんなに人がいるということに驚く。ぼくの大学には、日曜日に学校にきて活動するやつなんてほぼいない。いたかもしれないが、こんなにわんさかはいない。いやあ、楽しんでるなあと思った。それと同時に、こんなにわんさかいる同年代のやつらはどこへ行ってしまったんだ? と思った。

 

ぼくの会社には同年代のやつはぜんぜんいない。5、6人だ。そのなかに同期は1人しかいなくて、なんだかんだ「会社の同僚」ぐらいの関係だ。大学の時みたいに無邪気になれない。え、ぼくが大学の時に無邪気だったって?  そんなことは思ってない。ただ会社の関係ってさ、なんか違うじゃん。自分とくらべて相手はどんな成果を残しているかとか気になるじゃん。そうなるとほんとうにフラットな関係って難しいよね大学にくらべて、っていうことだ。大学時代はそういう比較なんてしないからね。

 

だからさ、あんなにこう、一応名目上はフラットな同期がわんさかいた大学という空間、同世代の男女があんなにわんさか入り乱れる異常な空間としての大学っていうのがあったはずなのだが、いったい彼ら彼女らはどこへ行ってしまったのだろう?  なんかいままわりにおっさんおばさんしかいなくね?  っていう。まあ日本の人口ピラミッドを見ればまわりにおっさんおばさんばっかりなのがふつうの状況なんだろうけどさ。だからさっきも言ったけど大学っていうのが異常な空間なんだよね。

 

これは日曜日の話だけど、前日の土曜日はゼミのOB会だった。現3年生と4年生、つまりぼくの3つ下と2つ下が中心になって盛り上がっていたのだが、なんか楽しそうだった。年齢が同じだから話題も共有しやすい。友達が最近バイトでなにしただの、やれ彼女彼氏がどうしただの……他方われわれOBは仕事がどうだの転職がどうだのというわけですよ。というか、共有できる話ってそんぐらいなんですね。社会に出るとそうなってきちゃうんだなというか。それに哀愁を感じるとともに、同世代であるというただそれだけで連帯し(ちゃっ)ている彼ら彼女らを滑稽にも思いましたね。なにを無条件に楽しそうにしてんねん。

 

まあそれはともかく早稲田で演劇を観た。途中アダルティなシーンがあって、男性が女性を押し倒すんですけど、ぼくは最前列で見ていたこともあってある種恥ずかしくなってしまった。ある種。こんなシーン映画や動画で散々見てるんだけど、こう目の前でまぐわり一歩手前みたいな領域まで行かれると……その押し倒されている女性がかわいいんですよ。栗色の髪がやわらかで、顔ちっちゃくて、太ももがわりと上の方まで露出していて、そんな女体が床に倒れ、男性俳優の指が女性のほっぺたに触れ、むにってくい込むんですよ。それを間近でみて、なんかこう「そういうのって実在するんだな」ぐらいの生々しさを感じてしまったんですよね。あまりに人と関わりのない生活を送りすぎていた所為で。そしてそんなことにさえ衝撃を感じてしまっているぼく自身に情けない気持ちになった。実在するわ。アホか。

 

でもやっぱりそれとはべつに嫉妬みたいな感情も感じた。ぼくが会社でつまんない仕事してそこそこに暮らしている一方、彼、つまりぼくを誘ってくれた役者の彼は夢を追ってるわけじゃんありていにいえば。学生の延長線上、お遊びといえばそうなのかもしれん。ただそれは、たしかに、ぼくが学生時代にできなかったことなんだよね。この日記の冒頭で学生会館の学生たちに羨望と嫉妬の視線を〜っていったのは、たんに遊んでてうらやましいっていうだけのことじゃないんだよね。彼ら彼女らはおれが学生時代にやってなかったことをやってるってことに羨望と嫉妬を感じていたんだよね。

 

でもここまで書いていて思ったけど、その羨望と嫉妬って、大学時代は感じていなかったと思う。おれはおれでやりたいことをやっていた。インターンとかやって、仕事っぽいことをやったりしていた。それなりに忙しかったと思う。でもそれじゃ足りなかったのかな。いま思い返すと、なんか足りなかったんだろうな。もっとなにかできたんじゃないか?  いやちがうな。「いまのおれはこのぐらいしかできない、しかし未来のおれはあんなことやこんなことさえできるようになる」と昔のおれは思っていたような気がする。

 

観劇後、友人と面会した。「つぎの公演も楽しみにしてる。また誘ってくれよ」「うん、来てくれてありがとうね」。彼は高校時代の時からだいぶ変わっていた。いろんな人と交流していろんなことを経験して咀嚼して、非常に堂々とした立派な人間になっている。彼は間違いなく、むかしできなかったことをやれるようになっている。むかし彼自身が期待していたとおりの自分になっている。それは今回じゃなくて、大学2年生の時、はじめて公演に呼んでくれたあの日からぼくが感じていたことだった。

 

あれから数年経って、まあ希望通りの業界で就職して2年経った。なあ、おれは昔のおれが期待していたようなおれになれているか?