研ぎ澄まされた孤独

とりとめのない思考を無理に言語化した記録

第1志望に落ちました

昨日、某出版社の2次面接を受けたのだが、今朝お祈りが来た。かなり志望度が高いところだったので、悲しい。とはいえ落ちただろうなとは思っていた。面接を受けながら、「あ、俺ヤバイ」と思っていたのだ。ESに書いていたことはまったく質問されず、「もし……だったらどうしますか?」などの、頭の柔らかさを問う質問ばかりされた。厳しい問い詰めだったが、決して諦めず、自分なりの回答を出した。笑顔を絶やさずハキハキと答えたつもりだった。でもなんとなく、自分はダメな気がした。自分よりももっと楽しげに、自分の魅力をアピールするやつがいるに違いない……そう思った。入室した時にピンと伸ばしていた背筋は、いつしか力なくしなだれていた。

 

面接後、学校の図書館でノートに面接のことを書きだした。質問されたことと、それに対する自分の回答を列挙した。こうして見返してみると、いずれも抽象的でいまいち僕という人物が分からない回答をしていた、と思う。面接時の自分の話し方を思い出してみる。しかし、あまりにも緊張していたため、どのような話し方をしていたのか思い出せない。思い出せないということは、きっとろくな話し方をしていなかったのだろう。非論理的で要領を得ない、どこかの政治家のような答弁。脳は記憶していなくても、身体がその経験を記憶していた。

僕はスマホで「面接 緊張」と検索した。そこであるノウハウを発見した。部屋のドアをノックする前に、心のなかで「ショートコント・面接」と言う。そうすると、ノックから退室まですべてがコントに思えるので緊張しなくなるらしい。確かに効果的な気もする。今度からやろう、と思った。

 

家に帰ってからも面接のことばかり考えていた。毎週楽しみにしている「マスカットナイト」の録画を見ても、少し気を抜いた瞬間にたちまち面接のイメージが目の前に広がっていく。いつまで経っても頭にこびりつく。頭部を切開し、脳みそを取り出してアルコール消毒したいと思った。

 

夜、弟が暇そうにしていたので話しかけた。

「面接の結果が明日来るんだよ。志望度が高いんだ」

「そう」

「正直落ちたような気がする。ノートに問答を書きだして反省したんだ。落ちたとしたら敗因はこれだ、というのも判明している」

「うん」

「もし落ちていたら……俺が今考えなければならないのは、もし落ちていたら、そこからどのようにしてメンタルを維持すれば良いのかということだ」

「ふむ」

「正直今の時点では面接通過の連絡はそこまで期待していない。数字で言うと五分五分ぐらい」

「ほう」

「でもね、やっぱり想像してしまうんだ。面接通過の連絡をもらい、次なる面接に向けて企業研究をする自分の姿を」

「へえ」

「一瞬でも気を抜くと、妄想が膨らむんだよ。内定を貰い、憧れの会社でバリバリ働く俺……」

「ああ」

「でも現実的にはそうならない可能性のほうが大きい。だからもしうまく行かなかった時のリカバリをどうするか、考えたいんだ」

「もう寝ていい?」

 

翌日、朝6時半に目が覚める。メーラを更新する。来てない。ふたたび眠る。

起きて、メーラを更新する。「……残念ながら、採用を見送ることになりました」

……起きる。夢だった。時刻は7時半。みたび眠る。

起きて、メーラを更新する。「……選考の結果、3次選考にお越し頂きたく存じます」

……起きる。夢だった。時刻は8時。布団から出て、シャワーを浴びる。スーツに着替える。朝ごはんを食べる。その間、いくどもいくどもメーラを更新した。メールは来ない。

今日は他社の説明会がある。時間が迫っているので、外に出た。総武線千葉行きに乗る。降りる。東西線東葉勝田台行きに乗る。降りる。外に出る。傘をさす。煙草に火を点ける。煙草を吸う。吸い殻を捨てる。会場に向かう。傘を閉じる。会場に入る。挨拶をする。席につく。……この間、いくどもいくども、いくどもいくどもいくどもいくどもいくどもいくどもいくどもいくどもいくどもいくどもメーラを更新した。メールは来ない。

説明会が始まるので携帯の電源を切った。

退屈な説明会が終わった。電源を付けた。メーラを更新した。

「選考結果について」

……

ご存知の通り、実は選考が通ったかどうかは件名だけで判別することができる。通った場合は「次回選考のお知らせ」という件名になる。そうでない場合は……

僕はただちにツイッターを開き、思いの丈をぶちまけた。「さよなら」「かなしい」「つらい」「しゃあないな」「いやしゃあなくない」「ああああ」「もうだめだ」「はっはっは」「しにたみ」「あばばば」「うふふふふ」……ひとしきりつぶやいたところで、冷静になった。

分かっていたことだ。落ちても取り乱さないように、昨夜必死に考えていたじゃないか。敗因は分かっているんだ。落とされたのには意味がある。決して運が悪かったとかじゃない。努力次第で挽回できる。他社の選考でな。……

 

そこまで考えたところで、思考がいろいろと巡った。メリーゴーラウンドに乗ってジェットコースターに乗るような、目まぐるしい思考の展開だった。そうして巡った果てに、僕は「パワプロクンポケット6」にたどり着いた。

パワプロクンポケット」シリーズは知る人ぞ知るギャルゲーである。おまけとして、野球のミニゲームが収録されている。僕はこのシリーズのなかでは6をい2番目にやりこんでいた(一番は8)。このゲームでは、主人公は複数の彼女候補から一人を選択し、交際することができる。これは普通のギャルゲーの要素だ。しかしパワポケは普通のギャルゲーとは少し違う。その違いは偶然性にある。どういうことだろうか。

パワポケ6には、鈴音という女の子が登場する。彼女はゲームにおいて、ある一定期間において確率的に発生するイベントにおいて、主人公と邂逅する。イベントが発生すればプレイヤーは鈴音を攻略対象として見ることができる(鈴音ルート解放)が、発生しなければ攻略することはできない。

つまりパワポケ6では、鈴音という女の子が彼女候補として設定されていながら、プレイヤーが鈴音を攻略できるかどうか――より正確には、攻略対象として検討することができるかどうか――は、完全に運に左右されるのである。

これは非常に悲しいゲームであると言わざるを得ない。プレイヤーはすでに攻略サイトなどで、鈴音という女の子が攻略可能であることを知っている。けれども実際に鈴音攻略に着手できるかどうかは、運次第なのだ。したがって、もしプレイヤーがどうしても鈴音を攻略しグッドエンドを見届けたいのであれば、鈴音登場イベントが発生するまでリセットを繰り返さねばならない(ただ、実際には鈴音登場イベントの発生率はそこまで低くはない)。

なんとも面倒なゲームだろうか。しかし僕はこのゲームに、人生の本質を見出す。

まず、鈴音ルートが開放されるかどうかは運だという点。これはまさしく就活だ。内定に至るまでの面接も運だが、その前のESだって運要素は強い。同様に、交際に至るまでのデートも運だが、その前の出会いだって運要素は強い。言ってみれば、この世界にセオリーなんかなくて、すべてはデタラメなのだ。この欺瞞を、パワポケは見事に暴露している。

次に、鈴音だけを狙うのであれば、リセットしなければならないという点。第1志望の企業に入りたいのであれば、落ちたとしても、就浪するしかない。すなわちリセットだ。でも人生はそんな簡単にリセットできるだろうか? できない。就浪だって簡単なことではない。したがって人生はパワポケのように、リセットして望む未来を手に入れることはできない。だから人生なんでほんとはどうでもいい。パワポケはそのことを逆説的に示している。

最後に、鈴音ルートじゃなくても、いいエンディングは迎えられるということ。鈴音以外の女の子でもグッドエンドはある。また、パワポケ6ではストーリーの後半に裏野球大会というイベントが発生するのだが、そこで優勝するとグッドエンドとなる。ほかにも、主人公はある使命により「犯人」を追っているという設定があるのだが、「犯人」を捕まえるとグッドエンドとなる。このようにパワポケではじつにさまざまなエンディングが用意されており、プレイヤーの努力次第では納得の結末を迎えることができる。つまりパワポケは、ある制約のもとで、無理なことは無理なんだけど、変えられるところはたくさんあって、その変えられるところを変えれば、いい人生になるんじゃないの? ……そう僕達に告げていたのだ。